和をたしなむ

2024.10.19更新 - 徒然なるままに

一目一目縫い上げる、無償の愛。「背守りと付け紐飾りについて」

 

 

七五三シーズンに向けて、

きもの美濃幸にご依頼いただける仕事も、

そのハレのひとときに向けてのものが増えてきました。

 

 

昨日のコラムでの書きましたが、

若女将の縫いもの工房の仕事も同様。

 

半衿付けや肩揚げ・腰揚げといった仕事が増え、

お客様との会話の中でも、

自分でやる事の手間であったり、

そもそも針と糸でしなくてもみたいな話も出てくる事があります。

 

 

 

そんな会話をしながら、

 

若だんなは自然と「針と糸で縫い上げる事の意味」は感じており、

両面テープではなせない意味というものをお話ししている訳ですが、

改めてその意味や意義といったものを勉強しようと思い、

一冊の本を手に取りました。

 

 

 

 

「子どもの着物大全」 似内惠子 著 誠文堂新光社

 

 

子どもの着物について、かなり詳しく書かれている一冊。

 

 

現代の様式を網羅しつつも、

その所以というものを歴史から紐解きまとめられており、

何か疑問に感じた時に開く、私の大切な一冊でもあります。

 

 

 

そのなかで、

針と糸にまつわる事が書かれている箇所は、

「背守り」や「付け紐飾り」のところ。

 

 

文章の内容を記しつつ、

私なりの解釈もまとめていこうと思います。

 

 

 

まずは「背守り」。

 

 

 

 

「背守り」とは、

 

鎌倉時代から始まった風習。

明治時代以降は装飾的な意味合いが濃くなり、

さまざまな意匠がほどこされました。

 

一つ身の着物には背中に縫い目がなく(背縫いがない)、

昔の人は背中の縫い目(=目)が魔を除けると考えていたため、

一つ身の着物には、子を守り魔を撥ね返すための「糸印」をつけました。

それが「背守り」です。

 

※子どもの着物大全 40ページから引用

 

 

 

今はあまり見かける事もなくなった背守りですが、

やはり「縫い目」やそれを成す「針と糸」というものは、

昔から魔を払う意味合いがあったことが分かります。

 

 

 

 

大人になる前、

まだ神様のものとされていたであろう幼少期の子どもを、

ただひたすらに護りたいと思う親心は、

今も昔も変わらないことを実感します。

 

 

 

続いては、「付け紐飾り」。

 

 

 

 

「付け紐飾り」は、

 

小さな子どもは動きやすいので、

簡単に着付けが出来るよう、

着物や襦袢には幅約6センチ、長さは70~90センチぐらいの

「付け紐」をつけました。

 

特に祝い着やよそいき着の付け紐には、

さまざまな文様の「紐飾り」がほどこされました。

 

これらは本来、魔除けのためのものでしたが、

明治時代の裁縫教室の教程に紐飾りの縫い方があったことなどから、

背守り同様、自由な意匠が考え出されました。

 

※子どもの着物大全 46ページ参照

 

 

こちらの付け紐飾りは、

ちょうど昨日、お客様が仕立て替える祝い着にも付けてありました。

 

 

 

 

魔払う、菱紋をかたどり、

それを四方から守っているかの様な紐飾り。

 

 

 

 

赤い糸が使われていることも、

魔を撥ね返し吉を呼ぶ色であり、

すべてに意味がある事が分かります。

 

 

これも一針ごと、縫い上げていく事に意味があり、

だからこそ付け紐飾りに本当の意味が加わる様に思います。

 

 

 

 

この様に、

 

縫い上げる事の意味、縫い目や糸目の意味というものを

改めて知る事が出来ました。

 

 

もちろん、昔は両面テープの様な便利なものはなく、

糸と張りを使う以外の選択肢はなかった事は間違いありませんが、

でも一目一目、想いを込めて縫い上げていく事は、

魔除けという後付けの意味あいを超える、

「子を想う愛」そのものだと私は思います。

 

 

生き死にが今とは違う感覚だった時代だからこそ、

縫う事ひとつにも意味を込め、想いを込めて、

ただただ無償の愛を注ぐ人の姿があったのでしょう。

 

 

 

かといって「何でも針と糸を使いなさい!!!」とは一つも思わず、

想う心の部分だけを知り、自身が込めていく事が、

令和の今、私たちが出来る事であり、

次世代へと繋いでいかなければならない事の様に思います。

 

 

 

そんな多くの親の想いが込められる七五三。

 

 

 

皆さまのご家庭でも自分らしく祝う気持ちが込められた、

素敵なひとときをお迎えくださいませ。

 

 

 

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