夏の白大島が結ぶ、素敵なご縁を。「東郷織物・夏白大島」
私が初めて購入した着物は白大島でした。
きもの美濃幸はカジュアル傾向に軸足を置いた品揃えとご提案を心掛けているきもの屋ですが、
それは2代目である女将の頃からの事であり、
また初代である祖父の頃は礼装の王道、それもど真ん中を行くようなきもの屋であり、
母である2代目の影響があってなのか否かは自身でも定かではありませんが、
私自身、紬の様な織物に興味と関心がある事には間違いないとの自覚があります。
そのはじまりも白大島だったのでしょうか。
25年ほど前のこと、
当時大変可愛がって下さった先輩の勧めで、
「白大島はいずれなくなるから出会ったら買っておきなさい」
と言われ、
当時20代のたかが知れる薄給にも関わらず、
その言葉だけを信じて「えいや!」と思い切り、
初めて誂えの着物に袖を通した時の気持ちを、
今でもよく憶えています。
7マルキの亀甲絣だった私の白大島。
白大島はその名の通り全身白色になるので、
当時の私は洋服でもあまりそうした経験がなく、
何だか気恥ずかしい気持ちで過ごしていた気持ちと共に、
「あんた、若いのに良いもの着ているね!」と、
着物を着なれたご婦人方に何度となく褒めていただいた誇らしい気持ちが、
同時に沸き立ってくる不思議な一着で、
その後、藍の大島も本場結城紬も着てきましたが、
白大島には他にはない感覚があったように感じています。
そんな私のルーツの様な白大島。
過日、私が購入した白大島とは別格、
東郷織物さんが手掛けた白の夏大島とご縁あり、仕入れる事が叶いました。
宮崎県都城市で製織活動をされている東郷織物さん。
大島紬と言えば隣県である鹿児島県~奄美大島の伝統工芸品ですが、
東郷織物の礎を創られたお一人である永江明夫氏は鹿児島県奄美大島生まれのご仁。
第二次世界大戦の際にシベリア抑留を経験され、
ようやく帰国の途に就けたと思えば奄美大島はアメリカの占領下となり戻ることが叶わず、
そのまま九州に留まり、出逢れた織物工房がこの東郷織物さんだったとのことです。
東郷織物さんと言えば、
木綿織物「綿さつま」が有名であり、
その素晴らしい織り上がりを見て触れた武者小路実篤氏から、
「誠実無比」との言葉を受けた織物な訳ですが、
この東郷織物さんが手掛ける夏大島も、
その言葉がそのままに当てはまる唯一無二の織物です。
丁寧に強撚糸を掛けた上質な絹糸を、
手締めにより緻密な絣糸を創り上げ、
またその織柄も他にはないモダンさを感じさせてくれるものが多く、
そして強撚糸から成される独特のシャリ感と、
その糸を使ったとは思えない滑らかか質感と着心地は、
単衣~夏衣における織物の最上位といっても過言ではないものであります。
今まで、私がきもの屋人生を過ごしてきた中で、
「単衣~夏衣におすすめの紬は何ですか?」と聞かれた時、
真っ先にお伝えする紬は、この東郷織物さんの夏大島です。
ただ、私たち本業であってもなかなか見かけることが少なく、
東郷織物さんの夏大島に出会う事は年に数反、
総絣のものそこから数えるほどになりますし、
ましてや、自身の心に留まる一品となりますと、
本当に出会える機会というものが稀有となっています。
年間数反しか織り上がらない東郷織物さんの白大島。
前述の通り、私自身には元々白大島への想い入れはありますが、
この一反に関しては、
大きく縦方向に流れる流水の様な模様と、
緻密かつどこか愛らしさも込められた葡萄唐草の様子にもひとめぼれをしてしまい、
またとない機会を得ることが出来ました。
この、東郷織物さんの夏大島に限らず、
今、当たり前に目の前にあるものに未来が保証されているものはひとつもなく、
一期一会の様に、この出会いの一反が最後の一反となる可能性を秘めています。
そして、その様な一反は不思議と素敵なご縁を結んでくれます。
この白大島が仲立ちしてくれるご縁は、
どの様なものとなるのでしょうか。
そして貴重なお品だからではありませんが、
織物好きのひとりとして、またお心を留めてくださる方の事を思いながら、
心込めて扱わせていただきたいと思います。
今のところ、オンラインショップには掲載はいたしませんので、
お心に留まって下さる方がおられましたら、
どうぞお気軽に実店舗にお問い合わせくださいませ。
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